今年も伊賀市内の旧崇広堂、gallery yamahonの2会場で「生活工芸」展を開催致します。
この「生活工芸」という言葉は 、民芸運動の時代から三島町生活工芸館(福島県)、また近年、2020年には金沢市の石川県立伝統産業工芸館が「いしかわ生活工芸ミュージアム」と称し開館されたりと、これまでも使われていました。それぞれの「生活工芸」という言葉に込められた意味合いは少しずつ異なりますが、暮らしの中にある工芸と使い手の親密な関係性は時代に関わらず共通しているように思います。私たちの「生活工芸」の始まりは2000年初頭からの新たな工芸の動向に端を発します。その流れを作った作家に見られる工芸の本質は高度な技術や伝統的な美意識を求めるものとは異なり、作り手が自身の生活を見つめることから生まれた現代的な生活に寄り添った工芸品でした。それはマンションのようなシンプルな空間にも似合う工芸品。工芸の魅力は日々のありふれた生活の中で美を感じることです。器は三度の食事を彩り、時に器を持つその所作にも美しさをもたらします。急須でお茶を入れる所作に見惚れた記憶をお持ちの方も多いのではないでしょうか。生活の中の工芸がもたらすその安らぎはプラスチックの無機質な容器には代替えできないものがあります。粘土、木、漆といった自然素材を身近に感じる安堵感もまた、電子機器に囲まれた現代社会にはますます必要となることでしょう。今展では全国で活躍する工芸作家の器を一堂に展示致します。これまで脈々と続いてきた日本の器文化、工芸文化の魅力を感じて頂ける機会となれば幸いです。今年の崇広堂の展示では現代に木の器の魅力を広く伝えた木工家、三谷龍二さんの活動をまとめた冊子「1981 – 2021 木工房の40年」に掲載されている作品とエッセイを特別展示致します。40年もの歳月をかけ、三谷さんが暮らしの中で育んできた器やオブジェへの眼差しを通して、1人の工芸家の生活工芸を感じて頂けて頂けると幸いです。どうぞご覧ください。
gallery yamahon 山本忠臣