木々に囲まれた緑豊かな奈良県水間の地で陶芸家・辻村唯の仕事をご紹介します。
陶芸家・辻村史朗を父に持ち、育った環境から多くの古陶磁器などに触れ、猿投などの須恵器に強く惹きつけられてきた辻村は2003年に開催した初個展より黙々と自然釉の仕事を一貫して製作し続けている。自然釉(灰釉)とは焼成中、窯の中で器物の一部に降灰した土の成分が長時間の高温により溶けてガラス質に変化して釉薬となるためそのように呼ばれ、窯は丘陵の斜面をくりぬいたトンネル状の窖窯(あながま)で焼成された。自然釉の古くは須恵器、また中世では伊賀焼、信楽焼などもその代表的な陶磁器であるが、辻村の自然釉は自作の窖窯で独自の焼成方法により、古陶とは異なった冴え渡った緑光を放つ。モノは置かれる環境においてその佇まいも大きく異なり、モノから感じとる印象もまた随分と違ってくる。障子などから入る柔らかな光でモノを観ることも、茶室のような薄暗い室でモノを見る機会も現代の暮らしの空間においては、減少しつつあるが、改めてそういう場で鑑賞することで、自然の厳しさや壮大さそして何よりその静かな佇まいから作り手の優しさをより深く感じられるように思います。
本展では新作の大壷の他、器も多数、出展頂きます。どうぞご覧ください。